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【音楽の政治学】“心の傷”癒えないユダヤ人 (1/2ページ)
このニュースのトピックス:音楽の政治学
1930年代に、ナチス政権に迫害された音楽家らが結成したイスラエル管弦楽団が81年、自らのタブーを破った。ナチスのイデオロギーの象徴にもなったドイツの作曲家、ワーグナーの曲を演奏したのである。
同年10月、テルアビブのコンサートホール。全曲を演奏し終えた後、指揮者のズービン・メータが突然、聴衆に語りかけた。「これからワーグナーを演奏します。聞きたくない方は退場してもらって結構です」。
会場はざわつき、退場する人々もいた。同楽団の女性広報官、ダリア・マルースさん(63)は「ワーグナーが演奏されることを事前に知っていた聴衆の一部は、アウシュビッツ強制収容所でユダヤ人が着せられたようなしま模様のパジャマ姿で抗議した」と当時を振り返る。会場の整理係の男性も腕をまくり上げ怒鳴ったという。腕にはナチスによる入れ墨の番号が消えずに残っていた。
メータが演奏を敢行したのは、音楽と政治を混同してはならないという哲学に基づく。「ワーグナーを聴いたり演奏したりするのは、音楽家として避けられない」と語るメータは、団員の同意も得ていた。だが、国を揺さぶる論争となった。
世論調査では、演奏に反対が6割、賛成は2割。「ワーグナーが駄目だというのであれば、ヒトラーの命令で作られたフォルクスワーゲンには乗れないのか。他のドイツ製品はどうなのか」など冷静な声もあった。
イスラエル政界からは、メータ追放の声すら上がった。今でもワーグナーに対する拒絶反応は少なくない。周囲の反対を押し切って2001年、ユダヤ人指揮者ダニエル・バレンボイムがワーグナーを演奏すると、イスラエル政府は「文化の陵辱者」と非難した。ユダヤ人が受けた心の傷は永遠に消えることはない。


