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【産経抄】9月9日
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「近頃、日本人は別れなくなった。また、別れる人を送らなくなった」。ジャーナリストの徳岡孝夫さんが、「文芸春秋」平成18年9月号に寄せたエッセーで、嘆いていた。空港や鉄道の駅から、別れを惜しむ風景が消えたのは、携帯電話のせいだという。
▼「さっき別れた人とでも、ちょっと親指を使えば、その人にメールを送ることができる。すぐ返信が来る。彼らは別れない。駅まで出向いて、泣いたり手を握ったりするのはアホらしい」。その通りだ。だから電話をかけて応答がなく、メールを送ってすぐ返信がないと不安になる。
▼三重県伊勢市で地域雑誌「伊勢志摩」の編集記者をしていた辻出紀子さん=当時(24)=が消息を絶ってから、まもなく10年になる。安否を気づかう両親は、紀子さんの携帯電話を何度、鳴らそうとしたことだろう。
▼チラシを配り、写真展を開いて、情報提供を呼びかけてきた。誤った情報に振り回されたこともある。きのうの小紙によると、中朝関係筋という思いもかけないルートから、新情報がもたらされた。紀子さんが、北朝鮮に拉致された可能性がある、というのだ。
▼「(拉致問題を)私の手で解決したい」。そんな大見えを切ったことを忘れたかのように、福田康夫首相は政権を投げ出した。きょう建国60周年を迎える北朝鮮は、日本に約束していた拉致事件の再調査を延期すると、伝えてきた。被害者の家族にとって、やりきれない日々が続く。
▼真相究明が困難なことは承知の上だ。捜査当局には、ねばり強い捜査を求めたい。紀子さんの部屋は、いつ帰ってきてもいいように、そのままにしてある。両親は着信音が鳴るたびに、「ひょっとして」との思いで、電話に出ているはずだ。