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【土・日曜日に書く】中国総局・野口東秀 民族感情に“悲しみ”の色

2008.9.7 02:33

 ≪「アウエー」の日本≫

 「近代的で文明大国」という印象を形成しようと、中国政府は国を挙げて北京五輪に取り組んだ。だが、新疆ウイグル自治区への出張を終えて五輪取材に入ったとたん、悲しい気持ちにさせられた。

 まず、サッカー女子の日本−ドイツの3位決定戦前、会場の飲料品売り場で、後ろに並んでいた中国人たちがこんな会話をしていた。

 「今日はどっちのチームを応援する?」

 「そりゃ(ドイツに)決まってる。(中国人には)感情がある」

 「その通りだ」

 「またか」とうんざりしつつ入った会場は、このやり取りそのままの雰囲気に包まれた。日本が攻め込むたびにブーイングが起き、ドイツの攻勢では怒濤(どとう)の歓声だ。

 「加油(がんばれ)!」の大合唱も、ドイツチームのみが浴び、青い服を着たボランティアまで任務そっちのけで観客と一緒に足を踏み鳴らし、ドイツを応援した。

 男子の対ナイジェリア戦など他のサッカー日本戦でも、同じ光景はみられた。女子テコンドーの岡本依子選手とモロッコの選手との試合を観戦した日本人は「岡本選手がポイントを取られるたびに歓声と拍手。決着がついた瞬間、大歓声が上がったのには驚いた」と話す。バレーボール男子の日本−ベネズエラ戦も、日本チームに対するブーイングの嵐に包まれて、「サーブを打つ前から、ブーイング。アウエー状態だった」という。

 ≪外交関係者に衝撃≫

 バレー男子の日中戦でも日本選手に激しいブーイングが飛び、その点を記者会見でただされた後の同女子日中戦でもブーイングは消えなかった。もっとも、これは自国チームが出場している場合であり、中国的には想定の範囲内だ。衝撃的だったのは、中国チームが出ていない試合でも“民族感情”がむき出しになった点だ。

 サッカー女子日本−ドイツ戦では、「一校一国運動」の指定校として日本の応援に回った花家地実験小学校の児童たちが会場の一角に陣取り、なでしこジャパンを応援していたから、なおさら観衆の民族感情は強まったのだろう。ただ、スポーツに詳しい記者は「私からみれば意外と静かだ。試合で日本の対戦チームを応援するのはよくあるのでは」とも指摘する。

 確かに、靖国神社参拝問題で日中関係が冷え込んでいた2004年夏に、サッカー・アジアカップで観客が暴徒化して反日騒動に発展、翌春には全土で反日デモが吹き荒れたのに比べれば、今回は、君が代斉唱でも起立するなど観客のマナーも格段に向上し、国際社会を意識した「文明的観戦教育」の効果がはっきりと出ていた。

 だが、「文明的観戦」とは次元を異にするのが民族感情だ。懇意の北京の日本大使館幹部は「五輪は総じて成功だったと思う」としたうえで、「首脳の相互訪問などを通じ、『暖かい春』と表現されるまでに、日中関係を改善するのに努力してきただけに、むき出しの民族感情は胸に突き刺さった。日中は難しいよ」と漏らした。

 「五輪を通して中日関係を少しでも前進させ、良くできないものか案を出したり、きっかけを探っていたりしたんだが…」。中国共産党対日部門の幹部もため息交じりに同じ意見を吐露した。中国側も五輪後の日中外交をどう展開すればいいか考えていたという。

 ≪世論、国益、メンツ≫

 五輪前、日本の外交関係者は中国の公安当局者とひそかに打ち合わせを重ねてきた。「日本を罵(ののし)る言葉や国旗を焼く、国歌斉唱時に起立しないなど、マナー違反の行為はさせないでほしい」。日本側の要請に中国当局は確実にこたえており、権力によって反日を押さえ込んだ結果が今回の五輪だった。

 16年夏季五輪の東京誘致を見据えた思惑も絡んでいたとみられるとはいえ、日本側は、開会式で日本選手団の旗手に中国でも人気が高い福原愛選手を、閉会式での旗手に、中国でも一躍、人気が出た平泳ぎの北島康介選手を据えた。

 さらに、日本選手団は開会式で日中双方の国旗を振って登場、マラソンでは北京日本人会は双方の国旗を用意して邦人に配布した。「卑屈で媚(こ)び過ぎ」との見方も少なくないが、「少しでも日中の国民感情を良くしたい」(日本側関係者)との意図があったという。

 胡錦濤指導部は、12月の改革・開放30周年に向け、社会主義国家の成功を内外に示す前段階の政治ショーを終え、政権安定に自信を深めた。一方で、先送りの政治改革や社会矛盾という問題が待ち受ける中で、中国国内の世論を見極め、国益とメンツにかかわるギョーザ事件や東シナ海共同開発に胡指導部がどう対処するのか、注視したい。(のぐち とうしゅう)

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