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【記者ブログ】北京五輪前後に読む本 福島香織 (2/4ページ)

2008.8.8 00:00
このニュースのトピックス福島香織の北京特派員記者ブログ

■それから年明けて出版された『兄弟』下巻は、文革で人間性を抑圧されてきた中国人が改革開放で弾け、欲望のままに暴走した結果うまれた狂乱、狂態が活写されている。これも一気に読み、現実の中国人の姿はブラックユーモア小説になるのだ、と思い知らされた。中国人知識人たちは、このあまりに赤裸々な現代中国人の生態を小説という形でつきつけられ、鼻白み、怒り、こき下ろし書評がメディアを席巻した。だが、正規版130万部が売れたベストセラーとなったことから、多くの中国人が、この小説に何かを感じ、考えさせられたことがうかがえる。

■嵐のような批判を受け、余華氏はいう。「中国には知識分子はいない。作家も大学教授も独立した批判精神がもてない社会だよ。独立した批判精神がないなんて知識分子じゃない」。今の知識分子の批判は、けっして自らの哲学や思想、経験からうまれた批判精神によるものではない。政府の意向にそった批判ばかりだ、と。

■この小説の読みどころは、主人公・李光頭の人物造形やエピソードのリアルさだろう。彼こそ、中国人の典型であり、中国そのもの、と余華氏はいう。学も教養もなく粗野で自分勝手で拝金主義。しかし金もうけのためならびっくりするほど大胆で、たくましく精力絶倫。文革の嵐のときには息を潜めて耐え抜き、改革開放の波にのって、はったりとデタラメな商売で富を築いてゆく。

■「紛争が続くダルフールですら、中国人は金もうけにいく。(ニセモノ製造のメッカといわれる)浙江省の義烏市に行けば李光頭みたなヤツばっかりだ」と余華氏。私が取材したことのある、北京の大金持ちの姿とこの李光頭のイメージがまったくもってぴったり重なる。彼も日本に単身わたり、毛生え薬で儲けた小金を、はったりと機転で増やしてゆき、フォーブスのランキングにものる大富豪となった。ゴミ拾い(廃品回収)で大富豪となるというエピソードも、ジャンヌ・ダルク印の「人工処女膜」も、昔から変わらぬ味のミルクキャンデー「大白兎」も、あやしい豊乳クリームも、すべて実在する。

■そしてその李光頭とは対照的な血のつながらない兄弟、宋剛。インテリで善良で思いやりにあふれ愚直といっていいほど真面目で控えめでハンサムな彼のような中国人を、私は確かに知っている。しかし、彼らはもう絶滅寸前の“希少品種”かもしれない。過酷な歴史に真っ先に淘汰されてきたのは宋剛のような人間だった。あるいみ、中国人の理想の人物像であるが、そういう人間は、この厳しい国を生き抜くことができなかったことを、誰もが知っているのである。

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