MSN Japanのニュースサイトへようこそ。ここはニュース記事全文ページです。

【記者ブログ】北京五輪前後に読む本 福島香織 (1/4ページ)

2008.8.8 00:00
このニュースのトピックス福島香織の北京特派員記者ブログ

■福島にプルーフや書籍を送ってくださるみなさま、いつもありがとうございます。本当はちゃんとレビューをブログに書きたいと思っているのですが、なかなか時間がありません。しかし、きちんとよませて頂いています。今日はブックレビュー。改革開放30周年の今年に、北京五輪前後に読むといい本を紹介。

■『兄弟』(上下、文藝春秋刊、余華著、泉京鹿翻訳)

■あまりにも中国人を露悪的に、ありのままに描写したため、中国人の文化人からは批判の嵐にさらされた問題作。批判書評だけで一冊の本までできたほど、社会現象となった。

■わずか40年の中国近現代史の中に詰め込まれた、欧米の400年にも相当するジェットコースターなみの社会変化を辛辣(しんらつ)さとユーモアと哀感と愛情で書き上げた大衆小説である。血のつながらない兄弟、李光頭と宋鋼の時代に翻弄される姿を通じて、文革の10年と改革開放の30年が中国にもたらしたものは何であったか、中国から奪ったものは何であったかを教えてくれる。そして、日本読者は「日本人が嫌いな中国人」がどうやって生まれたかを、理屈でなく感覚的に理解できるだろう。

■作者の余華氏と最初にあったのは2005年暮れ。世界各国の小説を通じてその国の未来を考える、という新聞の年末企画で、その年に上巻が出版され話題になっていた氏の「兄弟」の原作を取りあげた。余華氏の初期作品『活きる』(角川書店 飯塚容翻訳)は張芸謀監督によって映画化され、「赤いコーリャン」(原作・莫言)と並んで、日本人の知る現代中国文学のひとつだろう。しかし余華氏は寡作でしられ、すでに小説を発表しないまま10年がたっていた。『兄弟』は10年ぶりの小説であり、しかも文化大革命がテーマという問題作であった。

■読み始めるととまらず一晩で読んだ。そのままの涙の池におぼれそうになった。文革時期であくまでも人間的であろうと、誇りを失わずにあろうとし続けた人々が、どのように弾圧されリンチを受け、命を落としたか、昨日責める側の者が今日は責められる側にまわる絶望と人間不信の中で、ごく普通の人が血も涙もない悪鬼のような行為に走る状況を、平易な文章でたんたんと描写しており、胸を打った。

■文革関連の資料を読んだり経験者の話を聞いたことがある私はこれがほぼ真実に即したものであり、具体的な歴史資料が下敷きにされていることを感じたが、余華氏によれば、当時、同書の編集を担当した若い編集者たちは、小説中の描写はすべて作家の想像力であると思いこんでいたという。だが、絶望と憤怒から頭に自分で釘を打ち込んで自殺する男の描写や、息子の死に気がふれて素っ裸で町中をうろうろする女性の描写は、米国のコロンビア大学の図書館で余華氏がみた文革資料の中にあった。今の中国の若者たちは、外国人以上に文革を知らないのである。

関連トピックス

PR
PR

PR

イザ!SANSPO.COMZAKZAKFuji Sankei BusinessiSANKEI EXPRESS
Copyright 2008 The Sankei Shimbun & Sankei Digital
このページ上に表示されるニュースの見出しおよび記事内容、あるいはリンク先の記事内容は MSN およびマイクロソフトの見解を反映するものではありません。
掲載されている記事・写真などコンテンツの無断転載を禁じます。