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【産経抄】9月15日
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大阪市福島区で、たばこ店を営む井形正寿さん(87)は毎日、なじみ客との会話を楽しんでいる。最近では、たばこ増税論議が話題になることが多い。大幅な値上げは、戦時中にもあった。
▼井形さんが、知人から譲り受けた昭和18年ごろの「金鵄(きんし)」の空き箱には、「平時定価八銭、戦時負担額十五銭」とある。「ある意味、正直ですね。今度値上げするとき、箱にはどんな説明書きがつくことやら」。井形さんは苦笑いする。
▼郷土史家でもある井形さんは、終戦をはさんだ数カ月間、大阪府警の特高係だった。昭和20年8月15日の午後、上司から大量の書類の焼却を命じられた。そのなかには、国民が当局に寄せた厭戦(えんせん)、反軍、天皇制批判のはがきや手紙が含まれていた。
▼その勇気に感動した井形さんは、一部を自宅に持ち帰り、機会があるごとに投書の主を捜してきた。これらの資料は、大阪市立福島図書館で、開催中の「戦時下、庶民のレジスタンス」に展示されている。
▼きょうの「敬老の日」を長寿を祝うだけでなく、お年寄りの話を聴き、記録に残す日にしよう。NPO「昭和の記憶」(本部・東京)では、こんな呼びかけを行っている。確かに井形さんに限らず、高齢者はみんな歴史の証人だ。一人一人の昭和の記憶を集めて、次の世代に伝える試みが、敬老の日に限らず広がっていけばいいと思う。
▼「みなさん、そろそろ30年、50年先を見据えた仕事をなさったらいかが」。小欄の知人は、高校の同窓会で再会した、元校長の言葉が忘れられないという。視線を過去だけでなく、遠い未来にも向けている。そんな人生の大先輩との会話から、仕事にかまけて足元しか見ていなかったことに気づく、現役世代も少なくないはずだ。