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【すごいぞ日本】ファイルVII 食は和にあり(1)
■最速パワーが世界を救う
北海道洞爺湖サミットで食糧危機への対応を討議した世界の首脳も、ヤムイモがこれほど注目を集めるとは思わなかっただろう。北京五輪の陸上男子百、二百メートルで驚異的な世界新を連発したウサイン・ボルト選手の父親が、遠く離れたジャマイカでこう語った。
「子供のころから食べていたヤムイモのおかげだ」
えっ、なに、それ? 一瞬、そう思った人もいるかもしれない。だが、ヤムイモはヤマノイモ属の食用芋の総称で長芋やジネンジョもその一種である。意外に身近な食材なのだ。
それなのに日本短距離陣はどうして個人では決勝に残れないのかという疑問はともかく、栄養学的にもヤムイモの主成分のでんぷんは体に活力を与え、タンパク質も骨などの形成に役立つという。東京農大国際農業開発学科の志和地弘信教授(48)はアフリカの食糧難を解決するため、その驚異の最速パワー食材の品種改良に取り組んでいる。
ヤムイモの「本場」は、実はジャマイカではなく、生産量の約96%を占める西アフリカだ。現地では、同じ主食のキャッサバという芋より味が良いとされ、収穫量がその家の富を表す基準にもなっている。抽出されるでんぷんは、のりやアルコールにも加工でき、西アフリカ諸国では感謝と敬意を込め「神様のプレゼント」とも呼ばれてきた。
だが、このプレゼントは増産が困難な農作物でもあった。「トウモロコシは1粒まけば300粒になる。ヤムイモは1個を3分割して埋めても、翌年に3個になるだけ。次のシーズンも同じ量を収穫したければ、3分の1を種芋として埋めなくてはならなかった」と志和地教授は解説する。
ヤムイモ増産の最先端研究を担うナイジェリアの国際熱帯農業研究所(IITA)には、1990年から3人の日本人が継続的に滞在している。先進国でヤムイモを日常的に食べるのは日本だけ。研究者も日本とアフリカ以外にはほとんどいない。その縁で一肌脱ぐことになったのだ。2000年から4年間、在籍した志和地教授はまず、種芋の改良に着手した。
小さな芋がついた段階でつるを切り、鉢に移して100日ほど育て、種芋にする。この方法で1株から約50個の種芋を安定的に取れるようになった。
次にヤムイモが成長しない「休眠期間」をホルモン注射で短縮し、収穫期を変える技法を開発した。
ヤムイモはそれまで、2月ごろ植えられ、年1回、11月ごろ収穫されていた。だが、稲刈りが終わった12月の湿地に注射した種芋を埋めると、稲作が始まる前の7〜8月に収穫できる。稲作農家の二毛作が可能になったのだ。志和地教授は「季節ごとにばらつきが大きかった市場価格も安定してきた。近い将来には、1年中どこかで収穫できるようになる」と話す。
ナイジェリアの農家はこうした方法を取り入れ、IITAでも西アフリカ各国の若い訓練生が帰国後に技術指導者の役割を担うため「志和地式」増産法を学んでいる。バイオエタノール燃料への穀物の転用が広がり、食糧価格が高騰した背景もあって、現地では「非常にタイムリーな研究」と評価が高い。
志和地教授は「ヤムイモの増産はアフリカの食糧不足解消につながる。食料自給率が低い日本ももっと芋に目を向ける必要がある」と、帰国後も日本とアフリカの種の交配実験を進めるなど研究を続けている。(芦川雄大)
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ファイルVIIは、世界に貢献する「日本の食」について報告する。

