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【日本よ】石原慎太郎 靖国再考

2008.9.8 02:47
このニュースのトピックス女性

 先日家内が同席した婦人たちの集まりで、自民党の古賀誠氏の靖国神社に関するテレビでの発言が大層話題になったそうな。集まりの中に家内を含めて何人かの戦争遺児がいたという。古賀氏の発言に強く共感した彼女たちからの要望で、古賀氏にそれを伝えて欲しいということで私もその発言のヴィデオを取り寄せて見たが、私も、靖国についての日頃の思いからして共感させられ、早速彼女たちのメッセイジを氏にとりついだ。

 それは彼女たちの、そして戦争での戦死者を身近に持つ者たちの、あの戦争の意味とか価値を超えた死者に対する情念(センチメント)の問題だ。そうした個々人の情念は決してたかがセンチメントとしてはくくれぬ、人間にとっては絶対的なもので、誰もそれを、何をかざしても否定出来るものではない。古賀氏は言葉少なではあるがそれをいい切っていた。そしてそれを全うする戦争犯罪人の分祀という術についても。

 家内の父親は彼女がまだ母親のお腹の中にいた間に中支の激戦地ウースンクリーク近辺の激戦場で小隊長を勤め、心臓への貫通被弾で壮烈な戦死をとげた。その前夜に翌日の戦闘での自らの死を覚悟して書き綴った遺書がある。

 新婚早々だった彼が、妻や幼い息子やまだ見ぬ娘に書き送った沢山の手紙は、若くして未亡人となった義母の遺言で彼女の兄の手で焼き捨てられるはずだったが、何を思ってかそれを焼かずに残した家内の伯父から家内にとりつがれ私も目にすることが出来た。

 現地での戦争が予想以上に長引き過酷なものとなっていく過程で、愛しい妻や生まれて間もない息子、まだ見ぬ娘への思慕を綴った何十通もの手紙は、後に縁あって義理の息子となった私の心をも深く強く打つ。 戦争中、海軍基地横須賀に近い逗子に住んでいた私は、近所の士官用の宿舎に新婚らしい若く初々しい妻と仮住まいして出陣し、間もなく木箱の中に名前を記されただけの位牌となって戻ってきた夫と、今は喪服でそれを迎える若い未亡人の姿を何度となく目にしてきた。その中のある人は、庭先にまぎれこんで遊んでいた私たちをわざわざ座敷に呼び上げて当時は珍しくなっていたお菓子をふるまい、なぜか自分の子供をいつくしむように頬ずりしてくれたものだった。されながら幼い私にも彼の心情が痛いようにわかっていた。ああ、この人はこの私を守るために死ににいくのだなと。

 私が最近までお世話になっていた眼科の老女性医師は、いつも診察室の机の上に新婚後間もなく出陣して亡くなった夫の乗っていた伊号潜水艦の写真を飾っていた。

 そうした、戦争という一種の極限状況の中で肉親や身近な人間の生死をかけた生と死の記憶は、もはや戦争の意味合いとか歴史的価値とは関わりなく、それを超えておのれの人生の中での強い情感に包まれた記憶として何をかざしても消し去ることなど出来はしない。そしてその情念を象徴、表彰するものとして靖国神社は存在していた。それは誰かがこれから造ろうとしている、慰霊施設とは本質的に違う。

 互いに割り切れぬものを抱えながら若くして孤独に死んでいった兵士たちが、戦場で芽生えたかろうじての友情や連帯の最後の確認の場として靖国を想い、家族への絶ちがたい思慕と未練の死後の充足の場として来世などという不確定な場所などではなしに、あくまで現存する靖国神社での言葉なき再会に思いを賭けて死んでいったのだった。それは神道に関わりない信仰をもつ者にしてもなお同じ思いだったに違いない。

 この現代になお、靖国に参る遺族、親族にとっても靖国は戦没者と同じ情念の拠りどころに他ならない。刑死した戦没者ならぬ、戦犯の合祀という愚挙は、結果として遺族、親族の情念を阻害する誤解を国際関係の中にまで投げ込んでしまった。

 敗戦後に行われた裁判はパル判事の発言や、結果として削除されてしまったイギリス人オーストラリア人将校の弁護士たちの冒頭陳述にも見られるように極めて非合法性の高いものだったが、しからばあの裁判で断罪された者たちのすべてに戦争に関する責任がなかったとは絶対にいえはしまい。

 その代表的人物だった、開戦時の総理大臣、さしたる実戦体験もない東条英機が作った「戦陣訓」の中の「生きて虜囚の辱めを受けず」なる文言が当時の日本の社会の中でいかに恐ろしい拘束力を持ち、いかに多くの犠牲者を生み出したことか。アメリカ軍が撮った、あの激戦地サイパンで米軍の捕虜になるのを恐れてバンザイ・クリフから身をなげて死んだ民間の女性の映像一つ見てもいえることだ。

 あの東京裁判に異議があるならば、その批判をも含めてなぜ日本人は国民が正当に選んだ者たちによる、あの戦争の真の責任者たちの糾明を行ってこなかったのだろうか。

 たとえば太平洋戦争の始まる前に起こった、多大な犠牲者を出したノモンハン事変なるものを主導した、高級参謀の一人辻政信なる人物は全く裁かれることもなく、逮捕を恐れて逃げ回った手記を発表しその評判を借りて立候補し、与党政府の悪口をいいまわり参議院議員になりおおせた。こんな馬鹿げた事実を国民は看過したが、声なき戦没者たちは許しはしまい。

 そうした怠慢が今日、靖国の存在の意味を風化させ、戦争という過酷な時代に、力ない者たちが肩よせあって生きて死んだ悲惨で美しい心の歴史をも否定し、対外的にも日本人の心象を誤解に導き、日本人としての最も深いところにある情念までも否定させつつある。

 天皇陛下も含めてせめてすべての遺族、親族が晴れ晴れ参拝が出来るためにも、遺族を代表して行われた古賀氏の発言はすみやか果断に実現されるべきに違いない。

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