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【ピアニスト小川典子の旅行鞄】オリンピックとは違うコンクール
英国のコンクールに入賞し、ロンドンと東京でデビューをして20年。コンクールをめざして練習に励む日々、師から「コンクールはオリンピックではない」と何度も諭されたことを、懐かしく思いだす。当時、この言葉を「速く、強く弾けばよいというものではない」と解釈していたが、演奏活動を続けるうち、その真意は別であることを知った。
4年に1度のオリンピック。絶妙なタイミングで体調を頂点に持っていくことは至難の業であろう。が、その苦労はメダルを掴(つか)むことで、究極の目標を達成する。一方、国際音楽コンクールは、メダルを得てもその輝きを放つのは瞬間にしか過ぎない。
ピアニスト稼業は、アスリート並みの体調管理に加え、長年にわたって築く信用を必要とする。ちょうど、レストラン経営のようなものだ。コンクール入賞メダルは、門出を祝う店先の花輪。客の関心が、どんな高名な人からの花輪よりも、奥の厨房(ちゅうぼう)から出される料理に集中するように、演奏会は、内容の充実と、継続してレベルの高い演奏を披露することこそ最重要課題なのである。
ピアノは、どの楽器よりレパートリーが広く、弾く人の数も多い。聴衆の耳も、洗練されている。時代は、どんな曲でも弾けるピアニストから、「この人ならこのレパートリー」と、分野を定めるようになってきている。得意な曲を突き詰め、気の合わないものは隣のピアニストに弾いてもらう。それでも、終わりなき充実を追求するピアニストに、目標の達成感を感じる日は遠い。(おがわ・のりこ)
【プロフィル】小川典子
おがわ・のりこ 川崎市生まれ。米のジュリアード音楽院に学ぶ。1987年のリーズ国際コンクールに入賞。自閉症児と家族のための「ジェイミーのコンサート」主宰。9月5日に東京文化会館でレクチャーコンサートを行う。