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【産経抄】10月7日
このニュースのトピックス:TV番組
昭和40(1965)年の正月松の内のことだ。NHKの技術の当直スタッフが、大河ドラマ「太閤記」の1回目の放送を見ていて、総立ちになった。タイトルが終わると、いきなり新幹線ひかり号が向かってくる映像が、目に飛び込んできたからだ。
▼新幹線が開通してまだ3カ月しかたっておらず、ニュースなどでさかんに取り上げられていた。その映像がドラマに紛れ込む放送事故が起こったと、勘違いしたのだ。時代劇のなかに、時折現代が顔を出す、今では当たり前の手法は、まだ珍しかった。
▼テレビの本放送が始まった昭和28年に入局した吉田直哉さんは、当時、33歳の若手ディレクターで、連続ドラマの演出はこれが初めてだった。「過去と現代とが対話する時代劇」の試みは、「歴史ドラマ」という新しい言葉を生んだ。
▼日本初のテレビ・ドキュメンタリー「日本の素顔」シリーズを手がけ、「NHK特集」(現NHKスペシャル)の基盤をつくるなど、斬新な映像表現で、視聴者を魅了し続けてきた。定年退職後は、大学教授の肩書のほか、名エッセイストでもあり、作家として芥川賞候補にも挙げられた。
▼多才な人だったが、自分で「夢の装置」と呼んでいたテレビへの愛着は、格別だったようだ。一方で、捏造(ねつぞう)番組や視聴率至上主義には、憤りをあらわにしていた。そんな吉田さんの訃報(ふほう)が先週末に届いた。77歳だった。
▼古巣のNHKは今、大河ドラマ「篤姫」の大ヒットで、意気が上がる。民放でも秋の番組改編で、TBS系とテレビ朝日系が、ゴールデンタイムに、ドキュメンタリーの新番組を投入することが話題になっている。吉田さんから、「夢の装置」を託された、若い作り手たちの活躍に期待したい。