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【ウェブ立志篇】米ミューズ・アソシエイツ社長 梅田望夫

2008.7.28 03:43
このニュースのトピックス梅田望夫

 ■若者を励ます「大人の流儀」

 米マイクロソフト(MS)会長のビル・ゲイツ(52)が6月末で経営の第一線を退いた。「涙をぬぐいながら『私の生涯でMSに思いを寄せない日は一日たりともないだろう』と、社員に向けて別れのあいさつを述べた」との報に、一時代の終わりを実感した。

 「インターネット時代の到来こそが、自分の仕事人生における最大の出来事に違いない」と直感した私は、1994年10月、東京での生活を引き払って、シリコンバレーに引っ越してきた。私がこの地での新生活を立ち上げようともがいていた最初の5年間は、今思えばゲイツの絶頂期と重なっていた。米司法省はMSを独禁法違反で提訴し、ゲイツは法廷で徹底抗戦していたが、MSの事業は順風満帆で、死角はどこにもなかった。ベンチャー企業の多くが、MSに買収されることを夢見ていた。

 iPodやiPhoneで今は飛ぶ鳥を落とす勢いのアップルも、当時は経営危機に陥り苦しんでいた。アップルは窮余の策で、創業者スティーブ・ジョブズを暫定CEOに迎えたが、ジョブズが経営再建のためにまず行ったのが、宿敵ビル・ゲイツを訪ね、MSからの出資を受けることだった。90年代後半とはそんな時代だったのだ。

 激しく変化するIT(情報技術)の世界には、ドッグイヤーという表現がある。犬の寿命が人間の約7分の1であることにヒントを得たこの言葉を使うと、移り変わりの激しいITの世界の1年を、普通の時間感覚で動く世界の7年になぞらえることができ、その変化・成長スピードに納得感が生まれるからだ。

 ふと思い立ち、計算してみた。すると、インターネット黎明(れいめい)期である1994年初頭から数えて、ドッグイヤー換算でちょうど100年(普通の世界の14年と104日)が経過したところだ、と気づいた。

 「ドッグイヤー100年」での最大の出来事は、MSに代わる新時代の覇者・グーグルの誕生と勃興(ぼっこう)だった。MSが創業された1975年にまだ2歳だった2人の若者がグーグルを創業していなければ、ゲイツはまだ引退していなかったのではないか。私はそう思う。

 振り返れば90年代後半のゲイツ絶頂期に、グーグルの創業者たちは、周囲の人々とはまったく違うことを考えていた。彼らは数学的関心に衝(つ)き動かされ、「世界中の情報を整理し尽くす」という研究に没頭していた。そしてその研究のための仕組みが、いま世界を席捲(せっけん)するグーグルの検索エンジンとなったのである。

 私のシリコンバレー生活も、あと半年ほどで「ドッグイヤー100年」を迎える。私がこの激動の中で学んだのは、「いずれ次のグーグルになれるはずの若者たちが今も必ずどこかに居て、ほかの人たちとは全く違うことを考えているに違いない」と想像する意志の力の大切さである。そう信じ、次世代に期待する心を持ち、若者たちの挑戦や冒険を、それが私たちには理解不能なものだとしても、応援し励ます「大人の流儀」を、絶対に身につけたいと思った。

 ビル・ゲイツは、MSの経営を退いたあとは、個人資産を投じて設立した世界最大規模の慈善団体「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」に活動の軸足を移す。彼がこれから身をもって示すであろう「大人の流儀」に心からエールを送りたいと思う。(うめだ もちお)

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