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【産経抄】10月1日
このニュースのトピックス:産経抄
試験的に佐渡島の空に放たれたトキは極端な怖がりなのだという。人間が目の前でカサを広げたり、カラスが現れたりしただけでパニックに陥り、頭をぶつけ合うこともあるそうだ。ノミの心臓ならぬ「トキの心臓」といったところである。
▼放鳥された10羽はこれから厳しい冬を乗り切らなければならない。関係者としては「もう少し、たくましい鳥になってほしい」という気持ちだろう。だが、人間もその小心ぶりを決して笑えない。米国での金融安定化法案の否決や株価暴落のニュースを聞いてそう思った。
▼金融機関の不良資産を国が買い取るこの法案について米政府と議会は成立で合意した。正式発表だった。ところが、このことを伝える日本の朝刊が配られる直前、下院が否決してしまった。新聞の読者には申し訳ないが、こんなどんでん返しはめったにない。
▼合意に逆らって反対した議員の多くは「選挙が怖い」だったようだ。米国民には税金で特定の企業を助けることへの抵抗心が根強い。だからうっかり賛成すると、大統領選と同時に行われる選挙で議席を失うという恐怖心が芽生え、これが議員同士で感染していったらしい。
▼議員の心理が洋の東西を問わず変わらないことを証明したようなものだ。その法案否決で米国の株が暴落したのも金融破綻(はたん)への恐怖からである。こちらは、世界恐慌の序曲となる1929年の「暗黒の木曜日」が薄墨のように脳裏をよぎった人も多かったことだろう。
▼むろんこちらの「怖がり」も笑えない。人間の歴史、中でも戦争の多くは「やらなければやられる」という恐怖から始まったと言えるからだ。もっとも鳥ならぬ人間は、その恐怖心を乗り越える術(すべ)を、過去から学んだはずだったのだが。