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【経済が告げる】編集委員・田村秀男 ウォール街危機 日本の好機
「昼飯を食うヤツは意気地無しだけだ」とオリバー・ストーン監督は映画「ウォール街」(1987年12月)で強欲豪腕の証券業者ゲッコーを演じるマイケル・ダグラスに言わせた。一瞬たりとも市場から目を離すと命取りになる。
負け組は二束三文でライバルに買収されるか、破綻(はたん)するしか道はない。株を早く売り、融資を回収しないと財務が悪化し、自身がそうなる。老舗証券大手リーマン・ブラザーズ、保険最大手のAIGなど大手金融機関の経営破綻や危機は連鎖し、他の金融機関に及ぶ。「かさむ恐怖、世界の市場を揺さぶる」(米ウォールストリート・ジャーナル紙18日1面トップ)。弱肉強食のウォール街族が共食いする程度ならまだしも、その余波は巨大で全員が共倒れになってしまうと、世界がおののいている。
だが待てよ、バブルまみれの米国金融界、つまりニューヨーク・ウォール街の因果応報、傲慢(ごうまん)で強欲の因果応報、つぶれるべくしてつぶれ淘汰(とうた)される。その結果、世界が大不況になるとはかぎらない、と考えることはできないのか。
今回の震源は昨年8月の低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)危機である。サブプライム関連の損失額は最近の国際通貨基金(IMF)幹部の発言では、総額1兆1000億ドル(約115兆円)。確かに巨額だが、90年代の日本のバブル崩壊後の金融機関損失額と同程度で、日本の3倍の米国の国内総生産(GDP)規模からすれば、公的資金活用などで消化が可能とも見える。
にもかかわらず、金融不安が収まらないのは、住宅ローンの証券化から派生した金利関連の「デリバティブ(金融派生商品)」が膨れ上がったからである。高度な金融工学手法というマジックを駆使した極めて賭博に近い金融取引手法である。金利関連を中心に米銀のデリバティブ契約残高は今年3月末で米GDPの10倍に上る。
米住宅金融の本丸である連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)、リーマン・ブラザーズ、AIGのいずれの経営危機も住宅関連のデリバティブ取引による巨額の損失に端を発している。デリバティブの全容は米通貨当局もつかめず、まさしく不気味な「大量破壊兵器」(全米最大の個人投資家、W・バフェット氏)と化したのが危機の真相である。
「世界恐慌」は食い止められるだろうか。1987年10月の史上最大のニューヨーク株価暴落「ブラック・マンデー(暗黒の月曜日)」時の場合、米国景気は後退せずに済んだ。マネーゲームの失敗に痛んだのは一部の投機家だけで、ドル暴落は避けられ一般の米消費者、企業への打撃は軽くて済んだからである。このとき、日本は超金融緩和し、余剰資金を米国に流し、米国の国債相場を安定させた。代わりに日銀は金融引き締めが遅れ、株と不動産のバブルが膨張し90年代初めに崩壊した。今回の米危機でも、日本は資金協力せざるを得ない。
20年前と違うのは、巨額の余剰資金を持つのは日本よりも、中国、さらに中東産油国、ロシアといった新興国である。中国もロシアも米危機のあおりで証券市場が大暴落に見舞われている。
これら各国と組み日本は対米協調によるコストを最小限に抑え粛々と経済活性化の戦略を立てる。円安による輸出促進という成長モデルを改め、円高の資金を使って金融機関が国際化に打って出る。縮み込んでいるときではない。(たむら ひでお)