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【すごいぞ日本】論考編III(下)大転換期に生きる財産
北海道洞爺湖サミットのニュースをテレビで見て、1979年の東京サミットを思い出した。当時筆者は外務省入省直後。日本初のサミット開催で、本物のカーター米大統領、サッチャー英首相ら主要国首脳をごく間近に見ることができ、感激したものだ。
議論の大半は世界経済、とりわけエネルギー問題だった。70年代の2度のオイルショックで73年に1バレル当たり3ドルだった原油価格は高騰し、79年には30ドルまで上昇した。あれから29年、歴史は繰り返しているように見えるが、同じではない。今回のサミットが持つ意味は79年の比ではないだろう。冷戦終結後に始まったグローバル化が国際政治に地殻変動をもたらしつつあるからだ。
18世紀に始まった産業革命は、かつて植民地だった途上国にまで広がった。未来学者によれば、2030年までにBRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の経済が大幅に拡大する。逆に欧州と日本は人口が減少し、経済が衰退に向かうそうだ。1979年当時のG7の経済は世界GDPの半分を占めていた。そのシェアがいまは40%を割り込み、BRICS5カ国のGDPが日米を抜いて3割に迫っている。世界は19世紀末以来の大転換期に入ろうとしているようだ。米国の一極支配が失われ、中国やインドの政治的影響力が増していく。
北海道洞爺湖サミットは3日間の日程の3分の2がG8以外の首脳を加えた拡大会合にあてられた。欧米諸国と日本に集中していた「富と権力」の再分配を求める争いが世界的規模で始まるのだとしたら、今回のサミットはまさに、従来の先進国を中心とした国際ゲームの終焉(しゅうえん)を象徴する会議だったといえる。
日本を取り巻く政治・経済環境が厳しいことはいうまでもない。英紙フィナンシャル・タイムズは「姿の見えない議長国・日本」なる評論を掲載し、日本には地政学的思考が決定的に欠けていると評したそうだ。
しかし、日本はそれほど脆弱(ぜいじゃく)なのか。もう一度、オイルショックの1970年代を思い出してほしい。
当時のインフレは「狂乱物価」と呼ばれた。国内ではトイレットペーパーが買い占められ、テレビの深夜放送は休止になった。ネオンサインの早期消灯やガソリンスタンドの日曜休業も実施された。産業界には構造不況業種なる言葉まで生まれた。
米国では悪名高いマスキー法が施行され、当時としては世界一厳しい自動車排出ガス基準が導入されている。日本の自動車産業を狙い撃ちしたものだった。これほどの逆境でも、日本は見事に復活した。キーワードは日本人の真面目さと組織力である。米国が達成できっこないと思っていたマスキー法基準を日本のホンダがクリアした。政府と業界が省エネキャンペーンを始めれば、国民の多くが黙々とこれに従った。
GDPをエネルギー消費量で割った「エネルギー効率」で比較すると、日本は現在、欧米諸国の半分、韓国の3分の1、インド・中国の9分の1、ロシアの18分の1。文字通り世界の最高水準である。日本社会が培ってきた真面目さと組織力は失われていない。
その特性こそが大転換期の世界で比較優位を保つ貴重な財産であることに、いまこそ日本自身が気付く必要がある。(寄稿 宮家(みやけ)邦彦)
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宮家氏は元外務省中東アフリカ局参事官。現在立命館大客員教授、AOI外交政策研究所代表。54歳。

