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【すごいぞ日本】ファイルVI 商社再生(3) 食糧生産を育てる
ブラジルといえば広大なアマゾン川流域の熱帯雨林のイメージが強い。だが、食糧生産の観点からすると世界がいま、熱い視線を向けているのはむしろ、その南東部に広がる肥沃(ひよく)な穀倉地帯の方だ。
国連食糧農業機関(FAO)によると、ブラジルの耕作可能面積は約2億5000万ヘクタール。このうち現在、農地として使われている面積は6000万ヘクタール。土地は大きな資源でもある。国内での穀物生産が思うにまかせない中国などはすでに、ブラジルに目をつけて穀物の買い付けに走り回っているという。
日本の総合商社の中でも伝統的にブラジルに強いという三井物産は昨年8月、ブラジルで穀物サイロや鉄道輸送、輸出用港湾設備の整備、拡充を進めてきたマルチグレイン社(本社・スイス)に25%出資した。さらにブラジルで約10万ヘクタール(東京23区の1・6倍)の農地を持つアグリコラ・シングー社を買収し、マルチ社の子会社にしている。
三井物産の参加により、マルチ社は農産物の生産から物流、出荷までを手がけ、大豆やトウモロコシ、綿花などの栽培という川上から、日本向け輸出を含む川下まで、農業事業分野の一貫した体制を整えることになった。総出資額は100億円以上。単に穀物を買い付けるのではなく、現地の生産能力を向上させ、持続可能な農業生産を実現させるというグラウンドデザインを描いたうえでのプロジェクトである。
プロジェクトに取り組んだ三井物産食料リテール本部の高野純平穀物油脂部次長は「農地の面積や地質などを考えたら、世界でもブラジルくらいしか適地は残らないだろう。しかも今回の農地はアマゾン流域の熱帯雨林より農業発展が期待される地域。何年も前から投資の意識を持っていた」と語る。
マルチグレイン社は三井物産の25%の出資のほか、米国最大の株式会社型農協CHS(年商144億ドル)とブラジル民族系穀物会社のPMGが各37・5%を出資している。
三井物産にとってCHSは、1990年代半ばに米国でドレッシングやマーガリンなど油脂加工食品事業で信頼関係を築いてきた仲。現地のPMGとは20年ほど前から取引関係がある。世界的に食糧需給が厳しいなかで「取引実績、ビジネス実績をもとにした絶対的ともいえる信頼関係が基礎にないと大型プロジェクトのパートナーは組めない」と高野次長はいう。
ブラジルでは今年6月下旬、日本から皇太子殿下をお迎えし、各地で日本人移住100周年を記念した行事が華やかに行われた。世界の大型新興国BRICs(ブリックス)の中で、他の中国、ロシア、インド3カ国と比べても、ブラジルは親日的な感情が強いといわれる。三井物産がブラジルに最初に拠点を設置したのは日本人移住30周年の1938年。ビジネスの蓄積は70年になる。
当面の投機マネーによる価格高騰の嵐が去ったとしても、世界的な人口増が続く以上、各国の国益をかけた静かなる食糧争奪戦は継続するはずだ。新たな食糧のビジネスモデルを構築する商社の試みが同時に、ブラジルの農業振興を助け、日本への穀物輸入を安定化させる一助にもなる。そんな時代が幕を開けている。(小林隆太郎)

