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【青雲の大和】(316)二つの祖国 (1/2ページ)

2008.9.7 03:59
このニュースのトピックス青雲の大和

 その文麻呂(ふみのまろ)が押使(おうし)の船室にあわただしくやってきたのは、船が難波津(なにわづ)をでて玄理(くろまろ)がひと息ついたときだった。

「押使にご報告しなければなりません」

 いきなり文麻呂は、底光りする瞳をすえていった。

「聴こう、なにか動きがあったのか」

 遣使船に乗りこむ直前まで、文麻呂が難波にきている高句麗(こうくり)、百済(くだら)、新羅(しらぎ)の使者、随員のあいだをまわって、半島三国の動きをさぐっていたのを玄理は知っている。

「じつは高麗(こま)が百済とはかって、新羅に攻めこもうとする動きがあります。しかも靺鞨(まっかつ)をひきいれ、三方から新羅をたたくつもりのようであります」

 事実とすれば、玄理がめざすものを根底からくつがえす重大事態である。

「まさかと思うが、その話、確かな根拠があるのか」

 もしほんとうに、高句麗が靺鞨を先兵にして、百済とともに新羅に攻めこむとすれば、唐はただちに大軍を発して遼河(りょうが)をわたり、高句麗本土へ進撃するであろう。玄理のねがいはむなしく、また戦乱の時代にもどってしまうのである。

「高麗の泉蓋金(いりかすみ)が公然と新羅を亡ぼすと宣言したといいますからね。本気ですよ、これは。開戦は七月、百済はすでに動きだしているということです」

 高句麗の実権をにぎる最高権力者が宣言したのであれば、進攻はまちがいないものとみなければならない。いま閏(うるう)四月、開戦まであと二か月あまりしかない。

「大使、副使をよんでくれ」

 玄理はいった。なんとしても高句麗の新羅進攻をやめさせるか、それができなければ、せめて唐帝との会見のときまで、戦いをひきのばす手を打たねばならない。

 急ぎやってきた大使河辺麻呂(かわべのまろ)は、信じられないという顔で、

「いま、なぜ高麗は新羅を討とうというのだろうか」

 と、文麻呂に疑問をあびせかけた。

 おくれて船室にはいってきた副使の恵日(えにち)も、きびしい眼を文麻呂にむけている。

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