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【青雲の大和】(314)二つの祖国 (1/2ページ)
河内(かわち)の磯長(しなが)にある聖徳太子の御陵に詣(もう)でたのち、馬で急ぎに急いで難波(なにわ)の小郡(おごおり)の宮に着いたとき、陽(ひ)はすでに淡路(あわじ)の山の端(は)に没しようとしていた。
「遅かったですな。皆、お待ちかねですぞ」
主殿の広間からでてきた文麻呂(ふみのまろ)がいって、そのままじっと玄理(くろまろ)の顔をみている。
「どうした」
「いえ、お顔の色がひどくわるい。お疲れではありませんか」
そういえば、未明に高向(たかむこ)の里をでてから、ほとんど休みをとっていない。
「おそばにいて、汝(いまし)なにをしている。もっと、きっちりとお仕えしないか」
背後に従って回廊をいそぐ田辺鳥(たなべのとり)に、文麻呂が声をひそめて叱りつけている。
文麻呂は玄理を総帥とするこの大使節団で、大使、副使につぐ第三の地位にあたる判官(はんがん)を拝命し、押使(おうし)の玄理を補佐する重要な役目を担っている。同じ使節団員とはいえ、末端の田辺とは格がちがうのである。
玄理が広間にはいると、居並ぶ者がさっと姿勢をただし、玄理を迎えた。
正面に主座がある。ほどなく中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)が到着されるという。わきに内臣(ないしん)の鎌足(かまたり)が、ゆったりとした深紫(ふかむらさき)の朝衣をつけて座していた。
主座のそばにもうけられた席にみちびかれて、玄理が腰をおろすと、鎌足が小声で、
「顔色がさえませんな」
と、心配そうに声をかけてきた。
「太子の御陵に詣でてきた。磯長から駆けっぱなしでね」
玄理が説明すると、鎌足は、
「これから大唐を相手にされる御身(おんみ)でありますから、くれぐれもからだにはお気をおつけくださるように」
といった。
「よくきいておこう。はじめてください」
玄理のそのことばで、遣唐使節団の壮行会がはじまったのだったが、宴がたけなわになるにつれ、どうにも耐えられぬほどの疲れと胸苦しさが募ってきた。