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【週末読む、観る】(3)『谷崎先生の書簡』水上勉、千葉俊二著ほか (1/4ページ)

2008.8.31 09:08
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 【書評】『谷崎先生の書簡』水上勉、千葉俊二著(中央公論新社・2730円)

 評・たつみ都志(武庫川女子大学教授)

 

借金地獄の中で名作生む

 谷崎潤一郎が中央公論社の元社長、嶋中雄二に宛てた104通の手紙の詳細な紹介をすることで文豪の経済面が赤裸々に語られる。毎回のように借金、原稿料、印税の前払いなどを依頼している文面は、贅沢(ぜいたく)、優雅な谷崎文学からは想像もつかない。しかも昭和5〜14年に至るまでの、訳あり借金地獄。『春琴抄』など昭和初期の名作群は、その地獄から抜け出すためのエネルギーから生まれた。

 嶋中(明治20年生まれ)は45年、同社に入社、編集者を経て、昭和3年に経営権を譲り受け、疲弊していた同社を立て直した伝説の人物。経営権を持ってからは、谷崎(明治19年生まれ)との間に立場を超えた信頼関係が築かれていった。借金の申し込みを聞き、出版の相談に乗っていた嶋中は、谷崎文学を支えた大柱だったのである。

 前半の68通は水上勉の考察が加えられて「中央公論」に連載の後、平成3年単行本として上梓(じょうし)されるや話題を呼んだ。千葉俊二はこのたび、先行本から抜け落ちていた36通の書簡を補遺し、合計104通の手紙の背景となる大正14年から昭和23年までの作家としての身辺を実証的に解き明かした。

 後半の圧巻は、改造社関係の貸金にかかわる資料への考察である。昭和初年、一冊一円の文学全集を出版して円本ブームを巻き起こした改造社。勢いに乗じて企画されたのが『谷崎潤一郎全集』全12巻の刊行である。昭和5年、谷崎は契約時に印税の前払いを受け、阪急岡本の土地家屋購入費の一部に当てた。だが全集は売れ行きが悪く、前払いは多額の負債となった。しかも全集に収めた作品の版権は改造社が握ることになった。これが前述の「訳あり借金地獄」の発端で、10年間苦しめられる。

 本書はこの負債問題の事実関係を明確にし、谷崎研究に大きな一石を投じた。

 千葉は言う。伝記はまだまだ未完成、事実誤認が多すぎる、と。証言者の記憶のトリックにすら言及する渾身(こんしん)の一冊である。

                   ◇

 ちば・しゅんじ 早稲田大学教授。昭和22年、宮崎県生まれ。

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