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【青雲の大和】(300)出で立つ日 (1/2ページ)
「いまひとつ、もうしあげねばならないのは国をまもるための兵制、軍制についてであります」
これもまた、鎌足(かまたり)は遠まわしに大君への進言をはじめた。いきなり皇太子府に執政権をもどすべし、とつめよるのでは、拒否されるのは眼にみえているからである。
「大国の脅威から御国(みくに)をまもり、人民(おおみたから)に安寧を享受せしめるには、強力な兵が備わっていなければなりませぬ。ところが現状はどうでありましょう」
全国民に農地を貸しあたえる班田(はんでん)は、ようやくにしてゆきわたりつつあるが、その見返りとしての兵役、労役の制は、まだごく一部でしか実施されていない。ためにこの国は平和ではあるが、武力ではほとんど無防備に近い状態におかれているのである。
「これをはやく立てなおすには、執政をきびしくしなければなりませぬが、そのためにいま一度、わたしどもは皇太子のご指導を仰ぎたく思うしだいであります」
鎌足がそういうと、大君は苦々しい胸のうちを隠そうともせず、
「それであれば、なにも飛鳥にもどることはないではないか」
と、中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)にむきなおっていわれた。
「いや、ここはわれが話す」
鎌足を抑えて、はじめて口をひらいた中大兄は、短気な性格をあらわにしつつ、
「主上(おかみ)は重臣どもにやさしすぎる。やわでありすぎるのだ」
と、はげしい口調で大君の政(まつ)りごとを批判しはじめた。
「そのようなことでは百年たっても、国家改新の大業は成せはしない。このさい重臣どもを締め出してもう一度やる、飛鳥にもどってもう一度やりなおす、というのがわれらの考えである」
これにたいし、大君もまた気色ばんだようすで、
「ならば、そちだけが飛鳥へ去ればよいではないか」
と、いわれた。
鎌足がみるところ、ほとんどこれは売りことばに買いことばである。
中大兄は国防上の問題もあって、都を飛鳥にもどそうとしている。しかし、主上は文句があるなら、中大兄だけ飛鳥にひっこんでしまえばいい、という言い方なのである。