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【青雲の大和】(295)出で立つ日 (1/2ページ)
このニュースのトピックス:青雲の大和
安曇寺(あずみでら)とよばれる旻(みん)師の学堂は、難波(なにわ)の大道(おおじ)を西へはいったところにある。
鎌足(かまたり)は妻、与志古(よしこ)にせきたてられ、一子真人(まひと)をつれて翌日、恩師の病床を訪れた。
天下の国博士(くにはかせ)の寺にしては、ひどく簡素で手ぜまな僧坊が境内の奥にあり、皇族、重臣らの名代として訪れた者が、それぞれ預かってきた見舞いの品を僧坊に置いて帰っていくところだった。
鎌足が皆の目礼をうけ、僧坊にはいると、元留学生仲間の請安(しょうあん)師が病室からあらわれ、暗い顔で、
「いま、眠っておる」
と、ささやいた。
請安師は難波から遠くはなれた飛鳥の奥の南淵(みなぶち)の里にひっこんでいるが、友が病に倒れたときいて駆けつけてきたらしい。
「師のおかげんは?」
鎌足がきくと、
「うむ」
と、いったきり答えず、
「おう、この子か、天才の誉れ高いのは」
そういって真人の頭に手をおいた。
「定恵(じょうえ)の法名をいただき、学問僧として、このたび長安へまいることになりました」
父の師である請安にむかって、真人はきちっと手をそろえて拝礼し、あいさつした。
「うん、勉学はきびしいぞ。なまけて、おれのようになるなよ」
請安が冗談ともつかず、そんなことを話していると、奥から、
「皆、はいってくれ」
という旻師の弱々しい声がきこえた。
鎌足は真人をまえに押しだすようにして、病室にはいった。
横臥(おうが)した師の顔は、まえよりいっそう黒ずみ、衰えがめだってきている。
「よくきてくれた。そこにいるのは?」
と、真人のほうに眼をむけた。
「師にはお世話になっております。真人でございます」