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【青雲の大和】(287)巨船が行く (1/2ページ)
秦(はた)は新羅(しらぎ)の使者、知万(ちま)の顔面につきつけていた剣をひいた。
とたんに知万の頬がゆるみ、巧みな和語による憎々しいばかりの饒舌(じょうぜつ)が息をふきかえした。
「いま、うかがっておりますと、貴国のかたがたはなにか、とんでもない思いちがいをなさっておりますな。いやまあ、おききください。唐の大軍をひきいれてはならない、といわれるが、もうすでに大唐の天兵は大挙して、わが国へ駆けつける態勢ができておる、ということでございますよ。わが上臣(じょうしん)、金春秋(きんしゅんじゅう)閣下は唐皇帝と、そこまで話をつけて帰ってまいりました。まことに、おあいにくなことではありますが、昔とちがうのです。わが新羅はもう貴国にたよる必要はなく、またご指示にしたがわねばならぬ理由もなくなったわけであります」
「では、われらの指示はきけぬというのであるな」
秦はふたたび剣の柄(つか)に手をやっていった。
「いやいや、帰していただければ、とりつぎはします。しかし、もっかの情勢はそういうことになっておるのでありまして、昔のようにはいきませんよ、ということをご忠告もうしあげているのですよ」
黙ってそばに立っている文麻呂(ふみのまろ)に、秦はむきなおった。
外事を担当する文麻呂は、あるていど現状をみとめているようだが、秦としては知万ごときにこうまでいわれて、ひきさがるわけにはいかない。
「このまま対馬(つしま)に寄らず、新羅沖へ直行できるか」
秦はきいた。
「この巨船だ、わけはない」
秦の意を察したか、文麻呂は力づよく答えた。
「よし、水夫(かこ)に指示して新羅へむかわせてくれ。王城に近い手ごろな島があれば、兵を先頭に上陸するのだ」
駆けだそうとする文麻呂に、
「それから雄君(おきみ)をよこしてくれないか」
そういったあと、知万を無視して船倉の九人の新羅人にむきあった。
「もしわれらの要求がとおらなければ、おまえたちは一人ずつ死んでもらうことになる。覚悟してくれ」