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敬虔の人 ソルジェニーツィン氏 翻訳家・小笠原豊樹 (1/2ページ)
このニュースのトピックス:言語・語学
■敬虔(つつしみ)の人…根っからの文学者
強制収容所での体験を書いた『イワン・デニーソヴィチの一日』で有名になったため、誰もが彼を反体制政治運動家とみた。収容所内でも他国の文学作品を読み込んで自らの作品に生かした根っからの文学者だった。
「反体制」というイメージから文学的にも前衛的な文体や内容を連想されるが、決してそうではない。ソビエト初期に出てきたモダンな前衛文学とは一線を画し、トルストイやドストエフスキーといったロシア文学の伝統的なリアリズムの系譜を受け継ぐ作家といえる。若いときからロシア語の辞書を繰り返し読み込み、文章や言語を崩さずに厳密に用いる。的確な比喩(ひゆ)も巧みに使いこなす。そんな文章は古典的で保守的。どこか優等生的な印象さえ抱かせた。
30年以上前だっただろうか。お忍びで来日した際に「私の作品の訳者たちに伝えたいことがある」という申し出があり、ロシア文学者の故・江川卓(たく)氏らと一緒に一度だけ本人と会ったことがある。彼は自身の闘病体験をつづった『ガン病棟』や第一次大戦を描いた『1914年8月』を始め、長い作品をよく書いていた。東西冷戦の最中ということもあり、隣の部屋にはSPが10人ほど待機していた。


