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【週末読む、観る】(4)『七つの人形の恋物語』ほか (2/4ページ)

2008.8.3 08:36
このニュースのトピックス週末読む・観る

 【書評】『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー著、黒原敏行訳(早川書房・1890円)

 評・稲塚由美子(評論家)

 ■破滅した近未来のおとぎ話

 目を醒(さ)ますと、父はかたわらで眠る子供に触れる。

 おはよう、パパ。

 パパはここにいるぞ。

 うん。

 こんな当たり前な、だが確かに魂の根っこのような会話が、引用符なしの一文改行で、地の文とともにひたすら語られるのだ。そう、これはお伽噺(とぎばなし)。人が人をいとおしいと想(おも)う原型的物語である。

 だが、その背景はあまりに凄惨(せいさん)だ。近未来、世界は破滅している。陰鬱(いんうつ)な雲に隠れて動く鈍い太陽。焼き尽くされた土地。灰と砂埃(すなぼこり)に覆われ、死体は縮み、ほんの少し残った人間たちは飢えて争う。石がひび割れるほどの寒さの中、父親と幼い息子は、暖かいであろう南を目指す。絶望にさえ支えられて生きる、というほどの過酷さの中、人間が人間でいられるか、ぎりぎりの限界を試されながら2人の道は続く…。

 本書は、映画「ノーカントリー」の原作である『血と暴力の国』で、避けがたい厄災としての死を強烈に描いた作者の最新作だ。生命と世界と文明についての深い洞察にあふれた第一級の小説で、ピュリツァー賞を受賞している。

 さて、破滅の原因は一切明かさず物語は始まるが、お伽噺は愚かで残酷な現実の写し鏡でもある。人間は文明の進歩を手放しに賛美し、テクノロジーを信奉したあげくますます暴力的になり果て、たとえば核戦争を起こす。または地震のような天変地異によって、人類は無意味に滅びたことが自明の作品世界である。

 地球にとって、人間など取るに足らずとする科学的ニヒリズムを強烈に打ち出しながら、それでも作者は、地を這(は)って生きる人間特有の、かけがえのないものへの慈しみを全編にわたって紡ぐ。そのせめぎ合いの物語に心引き裂かれ、やがて、ただ、哀しくなるのだ。

 お気に入りのシーンがある。時々父は少年をじっと見る。見ないでよと言われても見るのをやめない。「いとおしい」とはきっと、そういうことに違いない。

 Cormac McCarthy 米の小説家。1933年生まれ。

 【この本と出会った】作家 名木田恵子

 『七つの人形の恋物語』ポール・ギャリコ著、矢川澄子訳(王国社)

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