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【週末読む、観る】(3)『人くい鬼モーリス』ほか (4/4ページ)

2008.8.3 08:35
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 【仕事の周辺】大友浩(演芸研究家)

 ■現場は怖くて面白い

 落語とアレ(※)は生に限る、というのが持論だが、楽しみ方さえ間違えなければ、CDやDVDも大いに結構なものだと思う。

 というわけで、仲間とワザオギというレーベルを立ち上げて、落語のCDやDVDをつくっている。

 某月某日。某演芸場。DVDの現場収録である。

 落語の場合、観客を入れないスタジオ収録は、通常考えられない。観客の反応も芸の一部…なのである。

 一つの落語会を丸ごとDVDに収録してしまおうという企画。番組全体の流れも見てもらうのが狙いだ。

 開演してまもなく、主役の一人A師匠が楽屋入りした。

 「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 明るく挨拶(あいさつ)したが、どうも様子がおかしい。案の定A師は不機嫌にこう言った。

 「今日の高座、全部DVDに収録するんだっけ?」

 「そうです」

 「あのさ、今度から、こういう企画のときは俺(おれ)に声をかけないでくれる?」

 ガーン。冷水を浴びせられた思いとはまさにこのこと。

 よくよく聞いてみると、どうやらこの日に演ずると言っていたネタが、うまく覚えられなかったらしい。

 「何を言ってるんですか! はじめからDVDの収録だと申し上げていますし、そもそも出演してもいいと言ってくださったのは師匠からじゃないですか。ネタだって師匠が言い出したんですよ!」

 なんてことは、口が裂けても言えない。

 なにしろ出番は45分後なのだ。高座に上がってもらわなければ、スタッフがこの日をめざして積み上げてきたすべてがゼロになるのだ。

 現場は怖い。

 なにA師だってわかっているのだ。ただ、本人でもどうにもならないことがある。それが芸というものなのだ。

 現場はたまらなく面白い。

 結局その日の高座がどうなったかというと…。

 まあいいじゃないですか。

 (※)言うまでもなくビールのことである。

 おおとも・ひろし 昭和33年、東京生まれ。演芸情報誌「東京かわら版」編集長を経て演芸研究家に。落語専門レーベル・ワザオギのプロデューサーも務める。

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