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【人、瞬間(ひととき)】あの言葉 草月流家元 勅使河原茜さん(48)(上) (1/2ページ)
■心揺らした父の優しさ
家元の孫とか娘とか言われるのが嫌だった。人前に出るのは嫌、目立つことも嫌。「お弟子さんたちのいるところでは、陰に隠れてましたね」
全国に約2万5000人の会員がいる華道「草月流」の家に生まれた。祖父の勅使河原蒼風(そうふう)が創流者。それを継いだ叔母の霞(かすみ)が早世し、映画監督でもあった父、宏が第三代家元になったのは、茜が20歳のとき。だけど「私には関係のないこと」だった。
高校時代からなりたかったのは、幼稚園の先生。「小さい子供が好きだったから」専門学校に進んで資格を取り、幼稚園に勤めていた。ちょっとした事情で4年間勤めた職場を去ることになって、次の幼稚園を探しているときに、父が突然言い出した。
「草月流で働いてみたらどうだ」
考えたこともない選択肢だった。「子供にかかわる仕事が楽しかったですから、ほんとに『えっ!?』って感じで。衝撃的でしたねえ」。宏が言葉を継ぐ。「べつに花は生けなくてもいいから。草月流のなかにも面白い部署があるよ」
どうなのかな…と考えてしまった。
「覚えているのは、香りですね。家にはいつも花の香りが漂っていました。とてもぜいたくなことだと思います。心に余裕がないとできないですよね」
そうだろう。生け花のお手本を毎日見て楽しめるような家が、そこら中にあるわけじゃない。小学校低学年のころ、叔母に生け花の手ほどきも受けた。ただ、そういう環境の価値に気づくのに、ちょっぴり時間がかかるというのも、よくある話。
「家にアーティストがいっぱいいる。なんというか普通じゃないわけです。でも私は違う、私は普通なんだ、そう思うことで安心しようとしていたのかもしれません。もしかすると、草月流の家っていうことから逃げていたのかも」
両親から、世襲に関する話をされた記憶はない。「そもそも、ああしなさいとか、こうしなさいとか一切、口にしないんです。ただ、やりたいことを見つけなさいとは言われましたね。女性も仕事をするべきだと、そういう教育をされました」。もちろん、仕事が生け花であっても何の不思議もなかったが、「私には向いてない」と勝手に考えていた。
提案が「家を継ぐ」というニュアンスだったら、断っていたかもしれない。「一度はいってしまったら、簡単には辞められないだろうなぁ…とも思いました」。ただ、言葉のやさしさが、かたくなだった心を揺らした。
「やってみようかな」
財団法人草月会の広報部で、一職員として仕事を始めた。
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