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【青雲の大和】(290)巨船が行く (1/2ページ)
島の民がみせるその姿に、秦(はた)はぼうぜんと立ちすくんでしまうほどの衝撃をうけた。
秦が朴井雄君(えのいのおきみ)と兵二十人を使って、いまやろうとしているのは、新羅(しらぎ)の唐への属国化をふせぐためであり、新羅の独立をまもるためであるのはまちがいない。それによって、大和に及んでくるであろう唐の脅威から、大和の国そのものをまもろうとしているのである。
しかし、そのために巨船で島にのりつけ、島を丸ごと占領してしまうなら、島民からみれば、それは侵略以外のなにものでもない。
にもかかわらず、島民がみせるこの底抜けに明るい素朴なしぐさは、どうであろう。巨船での島の制圧を彼らは疑ってもいなければ、恐れてもいないのである。
対岸の新羅本土は、百済(くだら)の進攻でいつ果てるともしれない戦いがつづいている。百済軍はかつての任那(みまな)の地を二分するほどまでに奪いとり、なおも攻撃の手をゆるめていない。
が、海峡でまもられているこの小さな島は、いまだ戦乱を知らず、侵攻をうけたこともないのであろうか、島の民は丘から手をふって、大和の巨船をおおらかに迎えるばかりである。
−−われらはさて、この無垢(むく)な島を占領できるか。
舳先(へさき)に立って、秦がひどく迷いはじめたとき、文麻呂(ふみのまろ)が暗い顔を伏せるようにして近づいてきていった。
「いままで考えづめに考えたんだが、秦よ、この作戦をとりやめることはできないか」
「なぜだ、わけをいってみてくれ」
「われらは戦術をまちがったのではないか、と思うからだ。大和の国威によって新羅を従わせることが、いまの時期、はたして正しいかどうか」
巨船をもって島を支配し、そこを拠点に兵をはこび、新羅にたいして談判すれば、新羅はかならずいったんは折れてくる。海中の大国、大和とことを起こせば、高句麗(こうくり)、百済は待っていたとばかりに進攻してくるであろう。それが恐ろしいからである。