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【断 富岡幸一郎】忘れ去られた!?国民的文学者

2008.8.10 03:33
このニュースのトピックスノーベル賞

 ロシアのノーベル賞作家、ソルジェニーツィンが死去した。スターリン時代のソ連の全体主義を告発した『収容所群島』などで、世界的に知られ、20年に及ぶ西側の亡命生活の末に、94年にロシアに帰国後も精力的に作家活動を展開した。日本ではソ連時代の反体制作家、共産主義体制と闘った文化人としての印象が強いが、米国に亡命後は、西欧世界の自由主義や合理主義を強烈に批判した。

 ソ連崩壊後のロシア社会の、グローバリズムによる混乱と無秩序に対して、ロシア正教に基づく祖国のナショナリズムを提唱したが、“宗教”音痴でナショナリズムアレルギーばかりの、日本の知識人や文学者たちからは、その存在が急速に忘れ去られた感があった。

 しかし、ソルジェニーツィンはスラブ主義と正教の民族的伝統の立場に一貫して立つ、プーシキン、ドストエフスキー以来の偉大な「国民的文学者」であった。ナロード(民衆)の地盤を信じた、国民主義としてのナショナリストであった。

 資源・食料・環境などをめぐって、新たな国家主義が前面に出てきた現在、「国民」を束ねるナショナルな価値の再評価が不可欠となっている。グローバル時代だからこそ「祖国とは何か」の意味が問われる。正教とユーラシア主義を理念とするプーチン首相が作家を高く評価し、作家も祖国を再建するこの政治家の登場を歓迎したのも納得できる。ナショナリズムをいまだに忌避する、わが国の知識人や文学者にとってだけ、作家は過去の人となったのである。(文芸評論家)

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