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【君たちのために 元家裁判事のつぶやき】(58) 読書が変えた価値観

2008.8.24 15:15
このニュースのトピックス強盗事件

 8年前、家裁の裁判官として、私が少年院送致を決めた少年に対する「収容継続」の審判をするため、少年院を訪ねた。少年は20歳を超えており、収容延長を認めるためであった。

 高学歴家族の二男で、知能にも恵まれていたが、ひどいいじめを受けたのをきっかけに、「強くなろう」と決意し、地元にゴロゴロいる年長の不良集団にくっついて回り、非行を重ねた。そして初等少年院(短期)に入ったが、全く改まらず、引き続き不良仲間の間で「のし上がろう」として、走っている自動車を止め運転手に暴力を加えて現金を奪うという強盗事件を重ねた。審判での印象は「きわめて自己顕示欲が高い」というものであったが、ご両親も「家の中では何もしゃべらず、外ではむちゃくちゃな行動を重ねるわが子の心の中がまったく分かりません」とガックリ肩を落としておられた。

 1年ぶりに会ってみると、刺々しい目つきがずいぶん柔らかになっており、寡黙だったのがペラペラよくしゃべるようになっていた。ご両親も「最近は、この子の心の中が大体分かってきています」とニコニコして安堵(あんど)の表情だった。

 少年院での、どのような教育が功を奏したのだろうと思い、いろいろ尋ねてみた。

 「ボクは今でも自己顕示欲が強いのです。認められたいのです」と本人が言うので、それはそうなのだろうが、どうも認めてほしい相手が180度変わったようだ。それが以前は地元の不良仲間だったが、今はお父さんやお母さんやお兄ちゃん、元働いていた鉄工所のおっちゃんなど、真面目にコツコツ生きている人たちに転換している。

 では、なぜそういう方向へ転換したのだろうか。さらに聞いてみると、「最近、被害者や遺族の方々の書かれたご本を次々と読んでいます。もう15冊くらいになりますが、今は『天国からのラブレター』(山口県光市事件の本村洋さん著)を読んでいるところです」と言う。「本当?」とビックリして、読んだ本の名前を言わせてみると、全部スラスラと言うではないか。

 どうやら、担任の先生が、被害者の視点に立って、自己の犯罪行動や価値観の見直しをさせようとして、そのような本の読書を薦めたところ、本人が気に入って、次々と読み進めているようだった。「自分がしてきたことを考えると辛いのですが、これらの本を読むと、世の中がまるで別の世界に見えてきて、とても面白いです」と本人は言う。ともあれ、よかった。(元家裁判事、弁護士 井垣康弘)

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