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【産経抄】9月19日
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「最強のクライマー」とも、「天国に最も近い登山家」とも呼ばれた。酸素ボンベや固定ロープに頼ることなく、8000メートル級の高峰を単独で踏破してきた山野井泰史さん(43)のことだ。
▼2002年10月、ヒマラヤのギャチュンカン(7952メートル)北壁に、妙子夫人と挑んだときは、下山途中に雪崩に襲われた。右足をつま先から6センチ、両手の小指と薬指を凍傷で失いながら、2人で果たした生還は、まさしく奇跡だった。
▼そんな不死身の登山家も、自宅近くで、生命の危険にさらされようとは、夢にも思わなかったろう。17日午前7時半ごろ、東京都奥多摩町の登山道で、ジョギング中に親子連れとみられる2頭のクマに襲われた。命に別条はないものの、鼻や腕をかまれて、重傷だという。
▼本州と四国に生息するツキノワグマは、本来おとなしい性格だといわれる。ところが、平成16年と18年には、山から人里に下りてきて、人を襲い、けがをさせる被害が続出して、大騒ぎになった。エサとなるブナやクリの不作が直接の原因だったが、山間部の過疎化が進み、人とクマとの緩衝地帯の役割を果たしてきた、里山が荒れ果てたことも背景にある。
▼クマにおびえる住民からは、駆除を求める声が強いが、「日本ツキノワグマ研究所」の米田(まいた)一彦理事長は、捕まえたクマを、山の奥に逃がす奥山放獣を提唱している。さらに、天候の変化によって、出没を予測する研究を進めて、クマとの共存への道を探りたいという。
▼山野井さんは、最低限の装備で一気に頂上を目指す「アルパインスタイル」と呼ばれる登山法にこだわる理由を聞かれて、「神聖な山を汚したくないから」と語ったことがある。ツキノワグマとの共存にも、大賛成のはずだ。